DSAセミナー
定時総会セミナー開催レポート
実施日時:2026年6月30日(火) セミナー:17:00~18:00 / 懇親会:18:30~20:00
会場 : 東京ミッドタウンインターナショナル・デザイン・リエゾンセンター
講演 : 山田祐照氏 SANTA DESIGN HOUSE代表
デザイナー / 空間装飾師
中井章郎氏 株式会社DOKASEN Founder&CEO Creative Director
進行 : 日本空間デザイン協会交流委員会 / 田中利岳
ディスプレイデザインの第一線で活躍してきた山田祐照さんと、空間を通じたコミュニケーションや体験価値の創出に取り組む中井章郎さんを迎え、ディスプレイデザインの本質とこれからの可能性について講演および対談を行いました。
セッションでは、ショーウィンドウや空間演出の事例を交えながら、人の感情や記憶に残る体験づくりや、非言語コミュニケーションとしてのディスプレイの役割について幅広く語られました。
デジタル技術の進展により情報へのアクセスが容易になった今だからこそ、リアルな空間だからこそ得られる体験の価値があらためて見直されていることも共有されました。
ディスプレイは単なる装飾や販促の手段ではなく、人と人、人とブランド、人と街をつなぎ、空間や都市に彩りや活気をもたらす重要な存在であることも確認され、リアルとデジタルが共存するこれからの時代においても、ディスプレイデザインは新たな体験や価値を生み出しながら、その可能性を広げていくことが期待される有意義な時間となりました。

前半は、山田さんが自身のキャリアを振り返りながら、ディスプレイデザインとの出会いから和光や松屋銀座などショーウィンドウデザイン、展示会やイルミネーション、最新の北京プロジェクトまで幅広く紹介し、山田さんの考えるディスプレイデザインの本質と未来について語るセッションとなりました。銀座和光のショーウィンドウとの出会いを転機として、多くのウィンドウ演出を手掛けた、当時の代表的な事例からは、時代ごとの表現や考え方の変遷を今あらためて新鮮に感じるとともに、ディスプレイデザインが変わることなく大切にしてきた本質的な価値を再認識する機会となりました。
そして和光での実績をきっかけに、活動の場はブリヂストン本社のショーウィンドウへと広がります。テニスボールを用いてチーターを表現した代表作をはじめ、「テクノロジーアート」をテーマに年4回、さまざまな技術や素材を取り入れながら表現の幅を広げてきたことが語られました。
その数々の事例からは、「見せる」ことを起点としながらも、驚きや感動、ブランド価値を伝える体験へと発展させてきた山田さんのディスプレイデザインに対する考え方が伝わってきました。山田さんは、歌人・俵万智氏の言葉である「ウィンドウは、物言わぬ街に開かれた劇場」という表現に深く共感しており、ショーウィンドウの本質を的確に表した言葉として今も大切にしているとのことです。
山田さんのセッションの最後には、2013年に展示会ブースで実験的に発表した「未来店舗」の取り組みで、QRコードを活用したコミュニケーション提案をはじめ、ショーウィンドウへのLEDスクリーンや液晶ディスプレイの導入、さらには春夏秋冬の移ろいを映像で表現するストーリー性のある演出など、時代を先取りした試みが紹介されました。現在では一般的になった映像やデジタル技術を取り入れたウィンドウ表現も、当時は新しい挑戦であり、「見せる」ディスプレイの可能性を大きく広げる取り組みであったことがうかがえました。そして、未来のディスプレイや空間表現への展望に触れたところで、かつてブリヂストン本社のショーウィンドウデザインを引き継いだ中井さんへと話題は引き継がれました。山田さんから中井氏さんへ、仕事のバトンに続いてトークのバトンも渡され、セッションは後半へと展開していきました。
後半のセッションは、中井さんが考えるディスプレイデザインの本質について語るところから始まりました。中井さんは、「見せるとは情報を圧縮すること」「その中に体験がある」、体験を生み出すことは時間を設計することでもあると説明しました。また、ディスプレイは言葉によって伝えるのではなく、空間やモノを通じて人に働きかける「非言語のコミュニケーション」であるとの考えを示し、空間から生まれるコミュニケーションや体験価値について独自の視点を紹介しました。中井さんのキャリアは、テーマパークのディスプレイデザインからスタートしました。
そこで学んだのは、ディスプレイとは単に物を見せることではなく、人がその場で過ごす時間の流れや体験のストーリーそのものを設計することであり、「すべてが体験である」という考え方だったとお話されました。この体験をデザインする視点こそが、後のショーウィンドウデザインにも通じる原点になったとのことです。その後、ディスプレイ業界で山田さんと出会い、ブリヂストン本社のショーウィンドウをはじめとするウィンドウデザインの仕事へと活動の場を広げる中で大きな転機となったのがティファニーのウィンドウデザインでした。
年に6回の入れ替えが行われるプロジェクトに携わるなか、自身の表現の引き出しの少なさを痛感し、思うようにデザインできず苦労したとのことです。そこで中井さんは、デザインの前にブランドそのものを深く理解することに取り組み、ティファニーの歴史や価値観、世界観を学び続けるなかで表現の幅が広がり、次第にブランドの魅力や想いをウィンドウの中に凝縮して伝えられるようになっていったそうです。
その経験を通じて、ウィンドウという限られた空間のデザインから、ブランド全体のコミュニケーションやプロモーションを設計する仕事へと活動領域が発展していったことが語られました。
SNSやマスメディアの発達によって情報伝達のあり方が大きく変化する中、ブランドの価値や世界観を体験として伝えることに取り組んだ化粧品ブランドのイベントやエプソンのコミュニケーションスペースの事例、また、情報をあえて削ぎ落とすことで受け手の想像力や感情を喚起する「解像度の逆説」という考え方につながった、資生堂ザ・ストアや大阪・関西万博「EARTH MART」での実践などが紹介されました。そこには、時代の変化を鋭く捉えながら、常に新たな視点でディスプレイの可能性を問い続ける中井さんの姿勢をうかがい感じることができました。
最後に、ディスプレイの未来を考えるにあたり中井さんは、ディスプレイを「街の呼吸」と表現しました。建築が街の骨格であるならば、ディスプレイは人々の日常に変化やリズムを生み出し、街に生命感を与える存在であると語りました。一方、山田さんは、自身の仕事を「空間活性化のデザイン」と捉え、人の五感に働きかけ、記憶や体験として残る瞬間を生み出すことこそがディスプレイの本質であると話されました。街という大きな視点からディスプレイの役割を捉える中井さんと人の感覚や体験という視点からその価値を語る山田さん。アプローチは異なりながらも、両者の言葉からは、ディスプレイが人と人、人とブランド、そして人と街をつなぐ存在であるという共通した想いが伝わってきました。デジタル化が加速する時代だからこそ、人が実際にその場を訪れ、見て、感じ、心を動かされるリアルな体験の価値は、これまで以上に高まっています。
ディスプレイデザインは単に装飾、販促の手段ではなく、人々の記憶や感情に働きかけ、街や社会に新たな息吹をもたらす創造的な営みであることを今回のセミナーを通じて、改めて実感することができました。その可能性はこれからも形を変えながら広がり続け、コミュニケーションや体験価値を支える重要な役割を担っていくということを参加いただいた皆様にも感じていただけたことと思います。

セミナーの懇親会は、参加者同士の交流が深まり、
実りある時間となりました。
レポート:交流委員会 貞森恵美子
[報告書PDF→]

