Shimanto+Terrace はれのば

施設単体空間を越えてまちに開かれた外部空間

今西 伴仁Atelier tomato

Shimanto+Terrace はれのば

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

このプロジェクトは商店街一角の旧銀行跡地が民間の地権者から中心市街地の活性化に役立ててほしいと土地と建物が市へ寄贈された事から始まった。市は集客拠点施設の実施主体となる事業者をプロポーザルにより公募し、地元民間有志5人がまちづくり会社を設立し公募に応募、採択された。初期投資は補助金を活用するものの役員5人の給料、配当はなく、必要経費を除く利益は全てイベントや施設整備などに再投資するという個人の利益を投げ打って街のためにと立ち上がった。この地域に生まれ育った設計者の一人としてそんな役員5人の強い想いに同調する形でこのプロジェクトに参加した。
敷地は高知県四万十市の中心商店街一角。地域住民を対象にアンケートを実施し、カフェ、テナント(4店舗)、広場、公衆トイレで施設を構成していく事が決められた。「屋根の上を利用できたら楽しそう」ある時施主が言った。これは収益重視の言葉ではなく「人が集まる楽しい場所を作るには」この問いに正面からぶつかり出てきた言葉である。そんな要素を拾い上げ、ヒアリング、検討を重ねていく中で建ペイ率40%、施設空間に対して屋上テラスや広場に抜けるアプローチ等の外部空間の割合も40%となって立ち現れてきた。これは周辺店舗のスケール感、そして外部空間の割合としてもとても大きな割合である。そこに木の構造フレームを連続して展開させる事で施設のデザインコードとすると共に、外部空間にリズムを与え、商店街のスケール、人が寄り添えるスケールへと昇華させる要素として機能させた。広場を取り囲むようにカフェ、テナントを配置し、シンプルなボックス空間と構造フレーム、ガラスにより空間を構成させる事で透明度を上げ、アーケード側から敷地奥の広場への視認性を高め、施設内へのアクティビティーを誘発している。2階の屋上テラスについてはアーケード側からもアクセスでき、カフェ棟、テナント上部を横断させ敷地奥の広場まで繋げている。立体的にも2階FLまでの高さを2650と低く抑える事で物理的に2階テラスの距離を近づけ、施設内への立体的な回遊性と奥行きを作り出した。
街の為にと立ち上がった人々の想いは収益性のみでは語れない開かれた外部空間として本来在るべき純粋な公共の場として現れている。そこには、変容し続ける社会、人々のアクティビティー、街のイベント、そんなあらゆるものを許容できる余地が存在し、それは施設単体空間を越えて商店街、そしてまちへと開かれている。

Question01

受賞作品の最後のピースは、どこでしたか?

木の構造フレームです。施設のスケール感を商店街のスケール、そして人が寄り添えるスケールに落とし込む要素として、さらには施設のデザインコードとして、施設内外空間をも貫き施設全体に展開させています。正にこの施設の在り方を決定づけている一つのピースです。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?

大きく分けると2つあります。
一つ目は何もない状態から考えそれが空間として形現れていくその過程です。模型などで検討し、また打合せも重ね、紆余曲折しながらもこうあるべきと考える空間へと近づいていきます。決して楽なものではありませんがそうやってああでもないこうでもないと考え、徐々に自分の求める実空間に近づいていく、その過程が好きです。
二つ目はやはり完成した空間が実際人に使われている状況を見るときです。そこにはいつも何物にも変えがたい喜びを感じます。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番嫌な事は?

建設費を算出する積算や見積といった作業的な業務です。公共物件や補助金を受けて建設される物件などは工事見積とは別に設計見積が必要になります。コンクリート量、ガラスの面積、木材量、鉄筋量等々、あらゆる部分を計算し見積を取り総工費を算出していく大変な作業です。外注するという方法もありますが普段使っている材料はどの程度の単価なのか、そんなコスト管理やコスト感覚を身に付ける事もデザインを実現するための重要な要素であると考えているため全て自社で行っています。

Question04

コロナ禍でのデザインの果たすべき役割とは?

人が集まることすらNGとされる中、建築のデザイン、建築に求められる空間の在り方も大きく変化していくと思います。ただ、この世界的な転換期は、単に人と対面しない、接触しないで済むというような単純なデザイン思考に向かうのとは正反対の、人との関わり方、人と人の繋がりといった人間の本質的部分を今一度見つめ直す機会を与えてくれているのではないかと感じています。そんな人間本来の本質的な人との向き合い方、まちや地域、環境との向き合い方を実現できるような、すぐに出てくる回答は無いのですが、そこを突破できる力がデザインにはあると信じています。

Question05

リアルとバーチャルを融合させる空間デザインとは?

近年、プロジェクションマッピングなどのバーチャルを駆使した新しい表現が生まれ、インターネットを利用した様々な新しいサービスもできており、コロナ禍以降そのような動きはさらに加速していくと考えられます。建築デザインをライフワークとし現在までとことん実空間というリアルと向き合ってきました。今後はバーチャル的要素に触れ、リアルとバーチャルを行き来するような状況も増えると思います。ただ、バーチャルの根底には確固たるリアルが存在しています。より深くリアルと向き合い続ける事で見えてくるバーチャル。そんなバーチャルとの向き合い方になりそうです。

Question06

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

都市の中での空間、自然の中での空間、居住空間、あらゆる場面で空間に求められる性質はそれぞれ違います。しかし、その根底には変わらない何かがあるはずです。それは、ふと風を感じる、遠く海の波音を感じる、はたまた久しぶりに再開した友人とのたわいのない会話の中にあるのかもしれません。そんな自然との繋がりや人との繋がりを感じる空間。このコロナ禍の世界であるからこそ、そんな些細なことが余計に尊いものに思えてなりません。

Question07

空間デザインの多様性について一言

社会はこれまでに経験したことのないほどスピーディーに変化しており一つの建築解では対応しきれないあらゆる多様性が要求され、求められる社会的ニーズも目まぐるしく変化しています。そんな中、そこに変わらないものがあるとすればそれは、人との繋がりや自然との繋がりといった、人間活動を継続していく上で切り離す事のできない動物的、人間的な部分です。前段の質問ともリンクしますが、その根底にある部分を常に意識し空間デザインに反映させていければと考えています。

Question08

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

人間は動物的感覚で空間を感じます。洞窟から始まり居住空間や宗教的空間、商業空間に至るまで、人を包み込む衣服の次に身体的に身にまとう空間として常に人間活動と共に存在してきました。安心できたり、気分が高揚したり、時には空間体験によって鳥肌が立つような感動まで与えてくれる。空間には人間の本質に訴えかける何かがあります。新しい空間を創造する事は難しくもある反面、その空間の本質に触れた時の喜び、そこに至るまでに感じるワクワク感は本当に刺激的なものです。そんな未だ見た事のない空間創造の旅へと一緒に出かけましょう。

PROFILE

今西 伴仁

今西 伴仁

Atelier tomato

1983年高知県生まれ。
2006年広島工業大学環境学部環境デザイン学科 卒業。
2009年宮脇建築設計事務所 入所。
2014年Atelier tomato 設立。
主な受賞歴
第18回高知県木の文化賞、2020日本空間デザイン賞銅賞、2020年度グッドデザイン賞 など。