曲屋KANEKO

築百年の日本最古の木造厩舎を新たな百年へと伝えるプロジェクト。

福士 譲 ・ 福士 美奈子フクシアンドフクシ建築事務所

曲屋KANEKO

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

かつてこの地域は軍馬等の産地として、戦後はダービー馬を輩出した競走馬の育成牧場として「南部の馬文化」を育んでいました。戦後は車社会の発展に伴い、馬の生産地としては衰退の一途を辿っています。現在牧場では牛を育て、畑で飼料を生産しつつ、ジェラート店とレストランを営んでいます。そこには多くの人が足を運び、豊かな自然と動物たちと戯れながらのんびり過ごすことができるスポットとしてにぎわっています。牧場内には幾つもの登録有形文化財が点在しており、その中のひとつで長い間遊休施設だった築百年の「南部曲屋風育成厩舎」の一部をオフィスとして、そして牧場を訪れた人が気軽に立寄れる空間としてデザインすることが求められました。
建物の半分を馬房として残しつつ、半分を馬房のモジュールを活かして耐震改修をおこないました。断熱仕様の各部屋は馬房の雰囲気を残した板の間の他、雪見障子越しに前庭や馬を眺める和室、赤いカーペット敷きの和洋折衷の個室など、それぞれ趣を変え、菜の花や向日葵など季節ごとの眺めを楽しみに、何度も足を運びたくなるような心地の良い空間を目指しました。中央板の間のガラス越しには既存の馬房と時折馬が出入りする様子が見ることができます。閉ざされていた小屋裏へ上がる階段を新設し、合掌造の軸組を望めるギャラリーとして白い箱を埋込みました。丸太で組み上げた百年前の職人と、新たな材を巧みに継ぐ現代の職人が共奏する空間です。
機械製材の無かった時代の木挽きの跡が残る青森ヒバの柱には現代の職人が埋木や接ぎ木で補強をおこない、式台は牧場内の大木から切り出した材を用いる等地域資源によるリノベーションを目指しました。「南部の馬文化」を伝える建物として、厩舎の歴史は井戸の天板に記し、馬が出入りしていた土間には蹄鉄跡を埋込み、地域特有の南部小絵馬は欄間に組込みました。また、仔馬のスツールや格子壁には南部菱刺しという技法で地域特有の模様を刺しました。着物を補強するための技術が、やがて模様の美しさを競う文化へと成長したように、地域の歴史と文化とともに「曲屋KANEKO」も次の百年へと続いていきます。

【左】牧場内の大木を使い式台として活用。/【右】厩からは時折馬が顔を出す。
【左】牧場内の大木を使い式台として活用。/【右】厩からは時折馬が顔を出す。
【右】耐震補強と時刻歴応答によるチェックをおこないながら小屋裏に白い箱をつくり、曲屋に新たな息を吹き込む。<br>【右】木挽きの跡が残る青森ヒバの柱に、現代の職人が埋木で補強。凹凸のある柱にぴたりと埋め込む高い技術。
【右】耐震補強と時刻歴応答によるチェックをおこないながら小屋裏に白い箱をつくり、曲屋に新たな息を吹き込む。
【右】木挽きの跡が残る青森ヒバの柱に、現代の職人が埋木で補強。凹凸のある柱にぴたりと埋め込む高い技術。
オリジナルデザインの仔馬スツール。座面にはこの地域文化の<br>「南部菱刺し」で、模様はこの地域に伝わるものと<br>「馬の眼(まなぐ)」や「べこの鞍」など牧場にちなんだものをセレクトした。
オリジナルデザインの仔馬スツール。座面にはこの地域文化の
「南部菱刺し」で、模様はこの地域に伝わるものと
「馬の眼(まなぐ)」や「べこの鞍」など牧場にちなんだものをセレクトした。

Question01

受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?

登録有形文化財のため外観を大きく変更することは難しかったので、内部空間で新旧の対比と融合を表現するようデザインしていきました。閉ざされていた小屋裏には当初より新たな部屋をつくることを想定してはいましたが、百年前の伝統工法による大空間に内包された白い箱をイメージできた瞬間が最後のピースだったのではないかと思います。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?

様々な要望や条件をクリアにしつつ、その場所にしかない空気感を纏った新たな空間を生み出す事です。そして完成後に使われることで更に輝きを増し、長い時間存在し続ける事に喜びを感じます。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番嫌な事は?

デザインが完成した後に、コスト削減や災害や今回のコロナ禍のような様々な社会状況の変化によってデザイン変更を余儀なくされる事です。

Question04

コロナ禍でのデザインの果たすべき役割とは?

デザインとは元々私たちに様々刺激を与えてくれるものだと思います。美しかったり、斬新だったり、心を豊かにしてくれたり、気持ちを静めてくれたり。以前は自由に行動できましたが、今は見えない鎖につながれたかのような生活を強いられています。この状況を乗り越え、足を運び、手に触れ、実感できる日を心待ちにするような、デザインは「希望の灯」であってほしいと思います。

Question05

リアルとバーチャルを融合させる空間デザインとは?

バーチャルの発展がめざましい昨今において、リアルとバーチャルの境界のようなデザインに興味があります。バーチャルは「よりリアルに」というより「もう一つ別の世界」になりつつあるのではと感じています。リアルからバーチャルへとつながるドアのような空間デザインが、回り回ってリアルをさらに面白くするのではないかと思います。

Question06

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

大都市も地方の小さなまちも社会は空間で成り立っています。空間デザインが持つ力は多種多様で言葉では簡単に説明できません。でもその力は間違いなく存在し、そこにひとびとの想いを乗せることができます。空間デザインで生まれる力を感じる機会を多くの人に、特に子供達に伝えていきたいと思います。

Question07

空間デザインの多様性について一言

誰もが知っている大ヒット曲が生まれていた時代とは異なり、最近は多様性が認められる時代になったと感じています。ひと昔前なら多くの人が認めるデザインが「良」でしたが、ターゲットを絞った「届けたい人へのデザイン」が求められるようになりました。空間デザインは一層多様化していくと思いますが、一過性のデザインではなく多様な人々をも受け入れることができる空間をつくっていきたいと思います。

Question08

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

デザインという仕事は一期一会のようにふたつとして同じモノはない、とても面白いことの連続です。でもその背後には、デザインを生みだすための試行錯誤を繰り返し、多くの人と関わり、問題や障害を乗り越えたりと様々な事象が隠れています。その過程は決して楽ではありませんがひとつとして無駄なことはなく、その積み重ねにより新たな空間は生まれます。そしてそれはきっと、人に、まちに広がっていくデザインだと思うのです。

PROFILE

福士 譲 ・ 福士 美奈子

福士 譲 ・ 福士 美奈子

フクシアンドフクシ建築事務所

福士 譲
1971年 岩手県生まれ。東北大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程 修了後、山本理顕設計工場入所。2005年 フクシアンドフクシ建築事務所 共同設立。

福士 美奈子
1970年宮城県生まれ。東北大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了後、石井和紘建築研究所入所。
2005年 フクシアンドフクシ建築事務所 共同設立。

主な受賞歴
日本空間デザイン賞オフィス部門銀賞 サスティナブル賞受賞(2021)、グッドデザイン賞(2012、2021)、JIA東北住宅大賞優秀賞(2011、2009)奨励賞(2019、2017)、東北建築賞小規模建築部門作品賞(2012、2010)、日事連建築賞小規模建築部門奨励賞(2010)など