石の菓子店

食をテーマとする現代美術家との共演。石が人々の記憶や希望を引き出し空間を満たす。

鈴木 文貴やぐゆぐ道具店

石の菓子店

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

『石の菓子店』は食をテーマに現代美術を作り続けるEAT&ART TAROとプログラムディレクター西尾美也による奈良県奈良市でのアートプロジェクトです。
1300年前、奈良は日本の都でした。当時の寺院の礎石や神社の神石(神が宿る石)などは今も残っています。この店にはそれらの石を模した宝石のような菓子が並びます。その菓子はお金では買えません。人々は思い入れのある石を持参すると菓子と交換できるのです。
「奈良を紐解くとは石の記憶をたどること。石の記憶とは、石の移動である。はるか昔、どこかから移動させられて今も残る石は、奈良から感じ取ることができる歴史、記憶、価値である」とEAT&ART TAROは考えます。
その思いを元に、やぐゆぐ道具店が歴史ある春日大社参道の茶屋を『石の菓子店』に変えました。10日間だけの店舗デザインでありインスタレーションです。
店内には木の円盤が88枚並びます。それらは組木のフレームに支えられており、茶屋の大部分を占めます。木の円盤はお客様が持参した石を展示する皿であり、合間の椅子で「石に囲まれ、石を模した菓子を食べる」ことのできるテーブルです。
座敷は石と菓子の交換所です。大小の丸穴を通じて持参した石と、石を模した菓子とを交換できます。丸穴のどこかにはEAT&ART TAROがいて、石についてのエピソード交換ができます。
木の円盤は地元の端材や古材を切り出したものです。よって樹種も色も様々です。好きな木に石を盛り愛でてほしいと思います。思い出と共に運ばれてきたたくさんの石を鑑賞したり、石を食べる姿を写真に撮ったり、隣のテーブルのお客様とクスッと笑いあったり。石を介在して会話が生まれればと思います。
そうして「いつしか木の円盤は菓子皿に、石は菓子に見えてくる」ことがねらいです。「石が菓子に見えてくる」ことは、石の記憶を辿れば奈良の歴史や価値と出会えるというEAT&ART TAROの考えの比喩であり、一見何気なく見えるものに魅力が潜んでいるという希望の暗示でもあります。

【左】EAT&ART TARO氏が不在時はオンラインで同氏と会話できる仕組みを作った。撮影:衣笠名津美 写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会/<br />
【右】EAT&ART TARO氏が作る「石を模した菓子」の見本と交換所。撮影:衣笠名津美 写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会
【左】EAT&ART TARO氏が不在時はオンラインで同氏と会話できる仕組みを作った。撮影:衣笠名津美 写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会/
【右】EAT&ART TARO氏が作る「石を模した菓子」の見本と交換所。撮影:衣笠名津美 写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会
【左】EAT&ART TARO氏が作る「石を模した菓子」のコンセプト説明。撮影:衣笠名津美 写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会/<br />
【右】石のエピソードを記したり、喫茶のできるテーブル。撮影:衣笠名津美 写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会
【左】EAT&ART TARO氏が作る「石を模した菓子」のコンセプト説明。撮影:衣笠名津美 写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会/
【右】石のエピソードを記したり、喫茶のできるテーブル。撮影:衣笠名津美 写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会
台の組み木と円盤は地元の端材廃材が用いられた。<br />
思い思いの木皿に載せられた石が、いつしか菓子に見えてくることが狙い。<br />
撮影:衣笠名津美、写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会
台の組み木と円盤は地元の端材廃材が用いられた。
思い思いの木皿に載せられた石が、いつしか菓子に見えてくることが狙い。
撮影:衣笠名津美、写真提供:奈良市アートプロジェクト実行委員会

Question01

受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?

菓子や石の単純な展示ではなく、人々の記憶や希望を引き出し、空間へ満たしていくことが必要だと考えました。その意味で、訪れて頂いた人々自身が空間へ最後のピースを嵌めていったのだと思います。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?

設計やデザインの職能をいかした「仕事」の先にある、イチ動物(人間)としての表現です。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番嫌な事は?

嫌なことは特にありません。

Question04

コロナ禍でのデザインの果たすべき役割とは?

コロナに左右されることなくいつの時代も人々はデザインが本質的に嘘か嘘で無いかを勘付いていたのだと思います。コロナ禍の社会的・身体的な制約の下でそれは分かり易く、世に晒け出されたのではないでしょうか。商い・デザイン・生き方、全てにおいて本質的かどうかが求められる時代なのだと思います。

Question05

リアルとバーチャルを融合させる空間デザインとは?

太古では信仰や希望を魅せるものとしてバーチャルが成り立っていたと思います。今はリアルの置き換えとしてのバーチャルが多いですね。もちろんそれも大事です。ただ融合の意味では、逆に伝承や物語や想像などの置き換えとして、リアルは生み出されるべきだと思います。そうして生まれた空間はプリミティブに心踊る詩的で恋心のようなものになるのではないかと思います。

Question06

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

空間デザインを依頼する方々や地域の姿、覚悟、物語を伝えたいということです。

Question07

空間デザインの多様性について一言

多様であるべきだと思います。空間デザイナーだけが空間をデザインをするべきではないと思います。また空間デザイナーも例えば美術・食・農・経営など、横断した分野で表現や仕事をすべきだと思います。

Question08

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

空間デザインの分野だけではなく、多様な業界で経験を積むことが良いのでは、と自戒を込めて申し上げます。

PROFILE

鈴木 文貴

鈴木 文貴

やぐゆぐ道具店

設計事務所勤務を経て2012年独立。
2018年田んぼと茶畑の広がる奈良県山間部に拠点を移す。
理念は「ものとものがたり」。土地・人の歴史や個性を探求し空間やプロダクトに「物語」を吹き込むこと。「物語」を読むと、主人公に夢中になり、社会について考え、生き方が変わるような瞬間があり、デザインでもそのような体験が生まれることを目指す。
全国各地でインテリアデザイン、プロダクト、アートインスタレーション制作を行う。
2018年〈BAKE CHEESETART あべのハルカス店〉「JCDデザインアワード銀賞・青木淳賞・鈴木恵千代賞・谷尻誠賞」受賞、英国Dezeen Awards「Retail interior of the year」受賞。
2019年〈堀内果実園 グランフロント大阪店〉「日本空間デザイン賞SHORT LIST」受賞。
2020年〈doors yamazoe〉「日本空間デザイン賞SHORT LIST」受賞、〈石の菓子店〉「日本空間デザイン賞 銀賞」受賞。