藤田美術館

歴史の時間軸及び創設者の想いを表現し 周辺までも取り込む建築及び空間の力

平井 浩之大成建設 一級建築士事務所

藤田美術館

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

創設者藤田傳三郎の「これらの国の宝は一個人の私有物として秘蔵するべきではない。広く世に公開し、同好の友とよろこびを分かち、また、その道の研究者のための資料として活用してほしい」という言葉を具現化することからのスタートであった 「ふれて、感じて、つながる」美術館を目指し 身近に美術を感じてもらいたいということがコンセプトであった。
エントランス「土間」には茶屋があり、お団子とお茶が楽しめる。だんご食べていたら、 あ 美術品が展示しているぞという身近さである。
大阪市都市公園と塀を撤去しお互いの敷地をつなげるという協議を大阪市と3年近くも行い一体化させたことが最も空間自体がつながる大きな要因であり 旧展示室 収蔵庫の木を保存展示 多宝塔の曳家等 歴史のつながりも実現した。
生捕りにした部材を設置するためには 新築の建物に応じた納まりに取付方法を検討しなければいけないが その都度のアイデアで そういう工夫を見せない努力を行い さりげなさを追求した。
保存するものは、きれいに塗装するのでなく、清掃する程度でそのまま使う。これが既存利用の極意であり、新しいものとの出会いで化学反応し訪れる人々に「時間」を感じて頂ける。
今回 空間に緊張感を与えるために特に三点配慮した点がある。
一つ目は、素材感に対する最大限のこだわりである。 
「ほんまもの」を追求するために 原寸モックアップ 暴露試験等で徹底的に検証した。点字鋲なども 土間の土の成分でこねて設置したり、エントランスの大壁面では、大津壁が人々を心地よく出迎える。

二つ目は、光の入れ方である。
トップライト部分には梁が貫通しているが、光を拡散する技術でその梁の影は落とさせない。あるいは、茶室の内部には光ダクトにより自然な光を内部に取り込む等 自然の移ろいを表現した。真っ白い漆喰の壁面に 庭の木々の風に揺られる影が落ち建物に動きを与える。そういう光と影の動きが、空間に深み、心地よさを与える。
三つ目は、時間軸を感じてもらう事である。
多宝塔はもともと旧美術館時代高野山に存在していたものを曳家でもって来ているが、高野山に存在している当時は高台にあり見上げる風景であったことが分かった。今回の敷地内曳家では、レベルを曳家前より既存より1m上げることで、昔の風景に近づけ記憶の継承を図った。これは決して言われなければわからないことであるが、そういうこだわりの空間構成が人々をなんだか引き寄せるものと思われる。インスタグラムで、若い女性が写真にアップするのもそういう場所をなぜか選んでいることもその見えない空間の力だと感じている。

大成建設、藤田美術館  撮影:薮田雄大

Question01

受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?

皆で創ったという 「想い」の結晶
空間自体を創るのは 「人」
クライアント 設計 現場 職人さん それらがみな会社立場を超えて
創ったことの証である 銘板の設置


Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きな事は?

自分にしかできないデザインを生み出すこと
空間には「人柄」が出ると常々感じている
空間デザインそのものは 自分自身そのものの表現だと思う

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番嫌な事は?

クライアント 設計 現場が三身一体でなければならないが
求めているもの 価値観が一人でも違う場合
出来上がる空間に魂が宿せなかった場合が一番いや

Question04

コロナ禍でのデザインの果たすべき役割とは?

目まぐるしい世の中の状況が変化している クライアントが求めているものだけを創っていては時代についていけない クライアントの「想像を超える空間を創造する」ことが重要であると痛感している。
コミュニケーションが希薄にならないよう「離して話す」空間づくりも大切にしていきたい。
結論はコロナだからと言って特別な物はなく ただ時代の変化に先読みすることの重要性を感じている。

Question05

リアルとバーチャルを融合させる空間デザインとは?

メタバース空間でリアルとバーチャルを融合させることは 今後の大きな課題でありそのチャレンジは続けている ただ 根底に流れる 空間の美しさは 普遍で手段として使っている やはり 中心にいるのは「人」である。

Question06

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

社会に伝えたいというより、社会に一つでも多く、心が豊かになる空間を生み出していきたい。

Question07

空間デザインの多様性について一言

空間の多様性が 単純に好き嫌いになってはいけないと感じている。
根底にはなぜこの空間になるのか、我々は説明できる必要があると思う。
その意味でコンセプトは重要で、そのコンセプトを具体化しているのであれば、三角でも丸でも形はどちらでもよいと感じていて、それだからこそ多様性が生まれると感じている。

Question08

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

デザインすることは 直感で感じるものの表現だけでなく、アカデミックな知識 時代性 文化性 歴史性 あるいはテクニカルな面を統合したものが重要であるため、いろんなものを 見て・感じて・話してください。
そこにいけば何か「感じる」そういう空間デザインを私自身もさらに目指していきたい。

PROFILE

平井 浩之

平井 浩之

大成建設 一級建築士事務所

1964 年 奈良県⽣まれ 
1988 年 京都⼤学⼯学部建築学科卒業後、⼤成建設⼊社 
現在 同社設計本部 エグゼクティブ・フェロー 副本部⻑(兼関⻄⽀店設計部⻑) 
2015 年 ⼤阪府建築⼠会研修委員会 理事
2018 年 ⽴命館⼤学理⼯学部建築都市デザイン学科 ⾮常勤講師 
 
賞罰
2008年 羽鳥湖高原レジーナの森:グッドデザイン賞
2010年 仙台トラストタワー:仙台デザインウィーク大賞
2011年 エーザイ本社ナレッジセンター:日経ニューオフィス賞
2017年 梅小路鉄道博物館:鉄道建築賞大賞
2018年 祇園末広町ビル:作品選集
2019年 パスカル大分:日本空間デザイン賞 オフィス部門 金賞
2020年 京都経済センター:JIA 日本建築家協会 優秀建築選 100
2021年 藤⽥美術館:第10 回みどりのまちづくり賞 花博記念協会 会⻑賞
2021年 藤⽥美術館:令和3 年度おおさか環境にやさしい建築賞 ⼤阪市⻑賞
2022年 藤⽥美術館:第20 回照明デザイン賞 最優秀賞
2022年 藤⽥美術館:⽇本空間デザイン賞2022 博物館・⽂化空間部⾨ ⾦賞
2022年 藤⽥美術館:インテリアプランニングアワード 優秀賞