NEOスナック街 窟

怪しさと好奇心を掻き立てるスナック横丁の空気感を、デザインによって更新し、現代に再定義した

柴田芳孝若松地所

NEOスナック街 窟

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

・作品に対する思い、コンセプトワーク

当社は、博多・中洲でスナック物件を専門に取り扱う小さな不動産屋です。近年、中洲では多くのスナックが閉店しました。ママやマスターの高齢化、コロナ禍による職場の会食規制など理由はさまざまですが、なかでも深刻なのが後継者不足です。

特に若い世代からは、古い内装や従来の営業スタイルを理由に「スナックで働きたくない」と敬遠される傾向があります。加えて、家賃の高騰や、老朽化して広すぎる“昭和スタイル”の物件が多いことも、新規参入の大きな障壁となっていました。

そうしたなか当社には、「一人でカウンター越しに丁寧な接客ができて、家賃や初期費用を抑えた、屋台のように小さなスナックを始めたい」という声が、特に若い世代を中心に多く寄せられていました。しかし、既存区画を壊して大規模に改装することは容易ではなく、物件探しには多くの時間と困難を伴いました。

・思考の過程、実現のためのプロセス、製作過程、問題・解決

そこで浮上したのが、築約50年の雑居ビルに残されていた約36坪のキャバレー跡を改装する計画でした。一般的なレイアウトではスナック4店舗が限界とされる空間に対し、席をカウンターに絞り、テーブル席を廃し、トイレを共用化することで、7店舗を成立させるプランを提案しました。

私たちが着想したのは「横丁」の空気感です。狭い区画に小さな店が密集する横丁特有の活気や、どこか怪しさを含んだ雰囲気を、従来の雑居ビルにはない新たな体験として再構築するため、空間構成と動線を徹底的に検討しました。店舗へと続く通路は一本の細い廊下に限定し、途中で折れ曲がることで先の見えない構成としています。各店舗には通路に面した小窓を設け、漏れ出す光や音が雑多なざわめきと一体感を生み出します。

また、トイレを共用とすることで、店を出るたびに小窓越しに他店の様子を垣間見る仕掛けとし、街の中で新たな発見や偶然の出会いが生まれる環境をつくりました。7つのスナックはそれぞれに個性を持たせながらも、街全体として統一感のあるデザインにまとめています。入口には徐々に狭まるアーチ状のゲートを設け、洞窟や路地へ潜り込むような高揚感を演出。足を踏み入れた瞬間から、「同じ洞窟の仲間」として自然に共感や交流が生まれる空間を目指しました。

・制作過程での出会い、発見、等・・・・

単なる改装にとどまらず、誰に対しても開かれた空間と、現代的で斬新なデザインに基づく一体的な“街づくり”の世界観は、中洲のスナック文化の衰退を危惧していた町内会長でもあるビルオーナーから高く評価され、採用に至りました。

スナック文化が持つ魅力を継承しながら、現代のニーズと感性に合わせてアップデートすることで、昭和のノスタルジーを超え、次の世代へと繋げていくことを目指しています。私たちは、スナックというコミュニティが育んできた人のあたたかさや人と人とのつながりを、新しい時代にふさわしいかたちで未来へ受け継いでいきたいと考えています。
窟は、九州最大の歓楽街・中洲に位置する、築約50年の雑居ビル2階に計画された。(撮影者:柴田芳孝)
窟は、九州最大の歓楽街・中洲に位置する、築約50年の雑居ビル2階に計画された。(撮影者:柴田芳孝)
約50年前の竣工時から使用されてきたキャバレー跡をスナック街に改装した。(撮影者:柴田芳孝)
約50年前の竣工時から使用されてきたキャバレー跡をスナック街に改装した。(撮影者:柴田芳孝)
築48 年の雑居ビルにあったキャバレー跡に、未来のスナック街を描いた。(撮影者:柴田芳孝)
築48 年の雑居ビルにあったキャバレー跡に、未来のスナック街を描いた。(撮影者:柴田芳孝)


【YouTube】NEOスナック街 窟(製作者:若松地所)
窟に込めた施主の思いと、入店したママ達の感想を収録しています。
https://youtu.be/lEYkYXN7yM4

Question01

受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?

窟のコンセプトに共感した、気立ての良いママ達が入店してくれたこと。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きなコト、ワクワクするコトは?

クライアントや街が抱える問題に、アイデアで応戦すること。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番苦労するコトは?

確実にマネタイズできるまでデザインを昇華させること。

Question04

クライアントとのやり取りで印象的に残っている言葉や出来事はありますか?

町内会長でもあるビルオーナーと夜の中洲を歩いていたとき、街角に並ぶ無料案内所や客引きの姿を見つめながら、「中洲の品が落ちよるね……。なんかせないかんよね……」と語られた言葉が、今も強く印象に残っています。
その言葉をきっかけに、これは単なる改装ではなく、中洲の未来に向き合うプロジェクトでなければならないと強く意識するようになりました。

Question05

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

人の感情は、デザインの力で良い方向に向けることができる。

Question06

空間デザインの多様性について一言

意匠の美しさだけでなく、その場所が持つ固有の空気や文化を否定せず、時代に合わせて更新していく姿勢そのものが多様性だと考えています。

Question07

空間デザイナーを目指す人々へのメッセージ

大手企業の仕事や経験を通じて己を高めるのも大切ですが、陽の当たらない場所や分野で蓄えた力を存分に発散するのも良い経験になると思います。ぜひ、中洲のスナックに挑戦してみませんか?

PROFILE

柴田芳孝

柴田芳孝

若松地所

有限会社若松地所 代表取締役/プロデューサー
福岡市博多区中洲出身
中央大学大学院総合政策研究科修了 
1992年 三越入社
1997年 三越銀座店 店舗企画室
2000年 三越eビジネス推進室
2008年 三越クロスメディア推進部
2010年 日本ランズエンド マーケティング部
2014年 久原本家グループ本社(茅乃舎・椒房庵) マーケティング本部
現在、家業である若松地所を継承し、代表を務める。