KARAKUSA -線が奏でるリズム-

未来を奏でる線のリズムを感じて

布川 光郷博展

KARAKUSA -線が奏でるリズム-

応募作品を空間デザイン的視点で語りつくしてください

資生堂唐草は、時代を超えて生命力と美の象徴を伝えてきた。本作は、その線のリズムを新たな息吹として立ち上げ、未来へと続く美の物語を描こうと試みたものである。生命の鼓動を思わせるリズムを表現するため、新体操のリボンのように伸びやかで自由な曲線を描く動きに着想を得た。
しかし、単にリボンを振るだけでは機械的で表情に乏しかった。そこで何度も検証を重ね、軸にしなりのあるピアノ線を用い、特殊な曲げ加工を施し、急加速させた動きを加えるなど、あえて多くの変数を与えた。結果として、人間の動きを超えた複雑で豊かな表現に至ることができた。
室内の展示空間においては、床に施されていた未来唐草を空間へと立ち上げた。20角の金物フレームによる繊細な構造のため、設計には多くの時間を要した。アルゴリズムや数値制御に頼るのではなく、あくまで唐草本来の伸びやかな線を目指し、手で思うままに線を描くように設計を行った。それは、コンピュテーショナルデザインやAIが台頭する時代だからこそ、人間の感覚に立ち返る挑戦でもあった。
現代は「正しさ」や「効率」を求める時代である。しかし唐草は自由で伸びやかに、絶えず変わり続ける美しさを届け続けてきた。近年のインスタレーションやウィンドウディスプレイは、都市に余白をもたらす存在とも言える。本作を通じて、その変わり続ける美しさを感じ取っていただければ幸いである。

① 制作初期スタディ(手を動かすフェーズ)<br />
理想の線のリズムを探るため、まずは頭で考えず、身体を使って形を描き続けた。<br />
均一ではない揺らぎや速度の差を、実寸に近いスケールで確認しながら線の質を探った。<br />
撮影:布川光郷
① 制作初期スタディ(手を動かすフェーズ)
理想の線のリズムを探るため、まずは頭で考えず、身体を使って形を描き続けた。
均一ではない揺らぎや速度の差を、実寸に近いスケールで確認しながら線の質を探った。
撮影:布川光郷
② 機構スタディ・制御検証(トライ&エラー)<br />
描いた線を機構に落とし込む段階では、想定通りに動かない問題が頻発した。
<br />
動き・負荷・干渉を一つずつ検証しながら、試作と調整を繰り返し、現象として成立する条件を探った。<br />
撮影:布川光郷
② 機構スタディ・制御検証(トライ&エラー)
描いた線を機構に落とし込む段階では、想定通りに動かない問題が頻発した。

動き・負荷・干渉を一つずつ検証しながら、試作と調整を繰り返し、現象として成立する条件を探った。
撮影:布川光郷
③ 現場組立・構造検証(スケールアップ)<br />
細いフレームで構成された什器は、組み上げては解体し、現場で何度も検証を重ねた。<br />

構造的な安定と、線の軽やかさを両立させるため、施工チームと対話を重ねながら最適解を探った。<br />
撮影:現場スタッフ
③ 現場組立・構造検証(スケールアップ)
細いフレームで構成された什器は、組み上げては解体し、現場で何度も検証を重ねた。

構造的な安定と、線の軽やかさを両立させるため、施工チームと対話を重ねながら最適解を探った。
撮影:現場スタッフ




Question01

受賞作品の最後のピース(ジグソーパズルを仕上げるに例えて)はどこでしたか?

最後のピースは、制作途中に起きたトラブルでした。

リボンが回転する棒に接触し、想定していなかった方向に曲がってしまう出来事がありました。一見すると失敗でしたが、その歪みが新たな変数となり、結果的に当初の想像を超える有機的な動きを生み出しました。制御しきれない現象を受け入れたことで、作品が完成したと感じています。

Question02

空間デザインの仕事の中で、一番好きなコト、ワクワクするコトは?

今まで誰も見たことのない世界を、この世に立ち上げられることです。
まだ言葉にも形にもなっていないイメージが、試行錯誤を経て空間として立ち現れる瞬間には、毎回強い高揚感があります。既存の延長ではない体験を生み出せることが、この仕事の最大の魅力だと感じています。

Question03

空間デザインの仕事の中で、一番苦労するコトは?

見たことのないものを生み出すには、見たことのない方法で試すしかないという点です。

確信のない状態で手を動かし続けることは、雲を掴むような不安や苦しさを伴います。ただその不確かさの中にこそ、心が大きく動く瞬間があり、その両義性こそがこの仕事の難しさであり、魅力でもあると感じています。

Question04

クライアントとのやり取りで印象的に残っている言葉や事はありますか?

制作の終盤で「ここから先は任せます」と言っていただけたことが、強く印象に残っています。
細部まで議論を重ねた末に託してもらえたその一言は、デザイナーとしての覚悟を改めて突きつけられるものであり、同時に大きな信頼を感じた瞬間でもありました。

Question05

空間デザインで社会に伝えたいコトは?

世界は、まだ美しいということです。

効率や情報に覆われがちな日常の中にも、目を凝らせば美しい現象や心を動かす瞬間は確かに存在しています。
空間デザインを通して、その事実をそっと思い出すきっかけをつくりたいと考えています。

Question06

空間デザインの多様性について一言

空間デザインは総合芸術であり、多様な専門性が交差する領域です。

デザイナー、エンジニア、職人、クライアントなど、誰一人欠けても成立しません。本プロジェクトも同様に、多くの人の視点と技術が重なり合うことで完成しました。その構造自体が、多様性を体現していると感じています。

Question07

空間デザイナーを目指す人へのメッセージ

近年、デザイナーに求められる領域はますます複雑で多様になっています。

その中で、外にある正解を掴みにいくよりも、自分の内側にある違和感や大切にしたい感覚を見つめてほしいと思います。それが、結果的に唯一無二の表現へとつながっていくはずです。

PROFILE

布川 光郷

布川 光郷

博展

Installation and Experience Designer
1994年生まれ。山形県出身。
2017年HAKUTENへ入社。

「現象と記憶」をテーマにインスタレーション、ウィンドウディスプレイ、エキシビションなどの領域で、文化や記憶に触れる空間体験をデザインする。
国内外の商業施設や文化施設での展示演出や、ブランドの体験型空間などを手掛ける。光や動きといった現象や特殊素材を用い、目に見えない感情を空間として立ち上げ、人と空間、文化の間に新たな関係や風景を創り出す。

FRAME「OF THE YEAR」/ Red Dot Design Award / iF DESIGN AWARD/日本空間デザイン賞「GOLD」など国内外で受賞多数。